2025,12,29
Aphex Twin / Xtal
Aphex Twinことリチャード・D・ジェームスにより1992年にリリースされた、アンビエント・テクノの金字塔的アルバム『Selected Ambient Works 85–92』の一曲目に収録された曲。
このアルバムは自宅で個人的に制作し、カセットテープに録り貯めていた膨大なデモ音源の一部をまとめたもので、14歳から20歳頃にかけて作られた作品というから驚きです。
当時の最先端の機材は高価だったため、比較的手頃な価格の機材を組み合わせて使用し、カセットテープに直接録音したそうです。
このアナログな録音方法と高音質とは言えない機材が組み合わさることで、絶妙なローファイ感と、ドリーミーで透き通ったサウンドが生まれました。
Aphex Twinはシンセサイザーや電子機器の専門用語をタイトルに使うことがよくあり、「Xtal」(クリスタル)というタイトルも、電子部品の”水晶振動子”(クリスタル・オシレーター)に由来しているそうです。
”電子機器の硬質なイメージと、透き通ったクリスタルのイメージ”
この二つの意味を持つタイトルは、まさに「アンビエント・テクノの幕開け」を告げるのにふさわしい楽曲。
そして、アルバムアートワークもまたかっこいい。
デザインを手がけたのは彼の学生時代からの知人で、グラフィックデザイナーであるポール・ニコルソンという人物。(攻殻機動隊という日本のアニメの”笑い男”というマークも手がけたそう)
90年代初頭、ポール・ニコルソンは"Anarchic Adjustment"というスケートウェアブランド向けに、当時流行していた”エイリアン”的な雰囲気を取り入れた『A』のロゴをデザインしていました。しかし、このスケッチはブランド側で不採用に。
fnmnlより引用
そのスケッチを目にしたAphex Twinは、抽象的で”地球外生命体”のような雰囲気を非常に気に入り、デザインを依頼し製作されました。
なんとこのロゴはコンピューターではなく円テンプレートと定規を使って、手作業で描かれたそうです。
『A』だと判別しにくい不完全さや実験的な雰囲気は、Aphex Twinの前衛的な音楽性に見事に一致しています。今ではエレクトロミュージック界で最も認知されるアイコンの一つとなりました。
AIが進歩した現代ではなかなか考えられない制作背景。
優れた作品の裏には、語られるべき面白いストーリーが必ずあるものです。
Double SONS 松井正太



