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Singalong

2016,06,04
小沢健二
「さよならなんて云えないよ」

「さよならなんて云えないよ」

小沢健二

 

Source Link
http://hihumiyo.net/kenji-ozawa/小沢健二-オザケン/paravion.html

ドイツ文学者の父と心理学者の母の間に生まれ、祖父は右翼の大物フィクサー。なんといっても叔父がかの有名な世界的指揮者 小澤征爾。そして本人も東大卒。そんなサラブレッド一家で育った小沢健二。

今回ご紹介する曲は、この小沢健二の「さよならなんて云えないよ」です。

 

 

そもそも小沢健二を知ることになったきっかけは、彼が以前組んでいたバンド、フリッパーズギターを知ることから始まります。
音楽とファッションと、スケートボードのことしか頭になかった高校生時代にひとつの映画に出会ったのです。

「オクトパスアーミー シブヤで会いたい」

1990年公開の渋谷を舞台にした、スケートボード映画。そのサントラが全曲フリッパーズギターでした。

小山田圭吾(現 コーネリアス) そしてオザケンこと小沢健二を中心とした今となっては伝説のバンド「フリッパーズギター」。
デビュー当時は「渋谷系の王子」なんて言われ雑誌「オリーブ」系少女達から崇拝されていました。今は〇〇王子と呼ばれる有名人も少なくないですが、今思えば〇〇王子と呼ばれたのも小沢健二が走りだったかもしれません。
そんな「フリッパーズギター」は、流星のように現れてわずか2年で解散。短い活動期間でしたが、世の中に影響を与えるには十分すぎる期間でした。
今こうして思い返してみると、当時はネオGSというジャンルで持ち上げられていましたが、(本人たちは全否定)ヒップホップでいうブレイクビーツ的な作り方であったり、イギリスのトレンドに見られたレイブカルチャーやシューゲイザーに影響を受けた音の作り方になっていたと思います。

 
Source Link
http://hihumiyo.net/kenji-ozawa/小沢健二-オザケン/studioclassic.html

 

左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる
僕は思う!この瞬間は続くと!いつまでも

 

小沢健二の作る歌は、どれもキャッチーなメロディと丁寧に描かれた歌詞ばかりです。そんな中でも、なぜ僕がこの曲を紹介したかったか。
小沢健二の作る歌には、人間の本質を突きつつもそれを明るくキャッチーに伝えたいという気概があるのです。

今回の「さよならなんて云えないよ」という曲。
タモリさんがこの曲について、「あれは人生最大の肯定」と大絶賛してるのはファンの間では有名な話ですが、それをよく物語ってくれているエピソードが1996年の「笑っていいとも」にあります。

その時の文字おこしがこちら。
*引用元http://littleboy.hatenablog.com/entry/2014/03/19/151258

小沢: タモリさんねぇ、僕の作品をびっくりするぐらい理解していただいていて。ありがとうございます。


タモリ: いやいや、とんでもない。最近ね、ホントに歌の歌詞で「ああ」ってなった人っつうのはね、あなたしかいないのよ。

小沢: あはは(笑)。それだから、なんか僕はホント、そうだなぁ…、音楽において年の差というのは何にもないんだろうなって思っていて。で、絶対この世代に向けてとか、そういんじゃない…。僕は少なくともそういんじゃないですから。そしたらタモリさんがああいうことを言ってくださってホント嬉しかったですね。


タモリ: あれはねぇ、本当に驚いたのよね、最近では。

 

 さらにタモリの小沢健二への賞賛は続いていきます。

 

タモリ: でもね、よく考えられた作品だよね。あのね、まぁいろいろ優れてるんだけども、俺が一番驚いたのは鹿児島で、それも車の中でできた作品で。『道を行くと、向こうに海が見えて、きれいな風景がある』そこまでは普通の人は書くんだけれども。それが『永遠に続くと思う』というところがね、それ凄いよ。凄いことなんだよ、あれ。

小沢: ホンっト、ありがとうございます。良かったなぁ、ちゃんと…。
ボクはなんかね、聴いてて、なんていうのかな……。
たとえば、今お昼休みで、「笑っていいとも」で"ウキウキウォッチング"してるところと、「人生の秘密とは」「生命の神秘とか永遠とか」そういうのがピュッとつながるような曲を書きたいんですよね。
それで、だから…。
んー。

タモリ: だからまさにあのフレーズがそうなんだよね。あれで随分…やっぱり考えさせられたよ。

小沢: ありがとうございます。

タモリ: あれはつまり"生命の最大の肯定"ですね。

小沢: ものすごい硬い話になっちゃった(笑)。


タモリ: そこまで俺、肯定できないんだよね。


小沢: んー。そうなんですか。でもボクもねぇ、そんなわかんないんですけど。たとえば大学とかで勉強したりとか、あと普段嫌なことあったり、いいことあったりするんだけど、そういうのがギュッとこのぐらいまでは結構ありましたって、いちいち報告するようなものが書きたいなって思って。


タモリ: なるほどねぇ。個人的な話になって悪いんだけど。


小沢: いえ、すみません、笑えるような話じゃなくて。


タモリ: いいのいいの、笑えるような話じゃなくったって。で、しかもそういう凄いことを簡単に何の嫌味もなく書けるっていうのが一番凄いことなんだよ。人間の能力で一番凄いことは複雑な物を簡単にポッと出す事なんだよね。簡単なものを複雑にやるのが一番バカなんだよね。


小沢: あははは。


タモリ: よくいるじゃない。あれ一番のバカなんだよね。


小沢: ですね、人生の複雑なことをそのまま複雑に「人生の~」「生命の肯定」なんて歌ってたってしょうがないわけで、やっぱり僕としては『痛快ウキウキ通り』みたいなことにしたいし。


タモリ: それがスゴいことなんだよね。


小沢: そういうふうでありたいなぁと思ってます。ありがとうございます。
タモリ: いやいや、期待してますよ。いつも観てますからね。


小沢: ありがとうございます。なんか、すみません。お昼休みっぽい話じゃなくって(笑)。


タモリ: いや、いいんだ。だいたいこのフレーズは、本が1冊書けるくらい内容のあることなんだから。だから大学行って勉強した事が凄いものになってるんだよね。


小沢: うーん、それを反映しようとは思ってますけどね。ボクは大学であり、誰かは空手をやってたのかもしれないし、誰かはスポーツをやってたのかもしれない。あとタモリさんはずっと『いいとも』をやってきたのかもしれないし、その中のことをボクはたまたま曲にするのであり…っていう。
なんかすごい真面目ですね~(笑)。


タモリ: ふふ(笑)。

 

 事実、このMV中にこの二人が話している内容がものすごく描写されています。
花屋に扮する小沢健二が主人公風なMVは、まさに日常を映し出していますがその中で

左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる
僕は思う!この瞬間は続くと!いつまでも

という部分があります。


*画像はMVのスクリーンショット

MVでいうとちょうど2:10の部分になるのですが、それまでは花屋に扮する小沢健二が登場するキャッチーな日常だった映像が、いきなり夕日になり少年たちが自転車でかける映像になります。
少年時代に、少年時代が永遠には続かないとわかっている人間などいるはずなく、その日常にある人生の刹那を表しているのだと僕は思いました。

さらに、会話のなかで「人間の能力で一番凄いことは複雑な物を簡単にポッと出す事なんだよね。簡単なものを複雑にやるのが一番バカなんだよね。」というくだりがあります。
僕自身、ヘアスタイルを作る上で大切にしていることがあります。

「一見手の込んで見えるようなスタイルを、さらりと作り上げる」
そこには、作り手のぶれない軸、そして、仕上がりまでのプロセスをどう使うかが重要になってきます。
日本語の美しさ、そして使い方を理解して歌う小沢健二。
20代で小沢健二が考えていたことが、その時の僕に与えた影響は計り知れないものでした。

今から19年前の1997年「渋谷系」と呼ばれたカルチャーが落ち着きを見せた頃、まるで雲隠れでもしたかのようにメディアや音楽業界から小沢健二は姿を消しました。
そんな彼が13年ぶりにコンサートツアーを再開したのが今から6年前の2010年。
どうにかチケットを手に入れようと奔走しましたが、その願いは叶わず。またいつか会えるかわからない気持ちを悶々とした思いを抱えていたのを覚えています。
そんな僕に次の朗報が訪れたのは2012年。小沢健二は「東京の街が奏でる」公演(全12回)をすべて東京オペラシティにて行います。
このプレミアチケットを運良く得ることができ、公演の第11夜に足を運ぶことができました。念願叶ったその夜は、今まで味わったことのない、そうオザケン風に言うなら「キラキラした夜」を、味わうことができました。

そして2016年5月25日、Zepp Tokyoでの公演を皮切りに全国ツアー『魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ』をスタートさせます。
今回このツアーチケットが奇跡的に手に入り、行ってきました。

「キラキラした夜」は、やっぱりまだそこに置いてありました。

 歌で伝える人、文章で伝える人、ヘアスタイルで伝える人。
「伝える」ことの質を、常に大切にしていきたいと思った今日この頃でした。

written by Double / 西村光太郎