
Sade
Sade 「By your side」
Sade(シャーデー)
1984年にイギリスで結成された女性ヴォーカルとバックバンドからなる4人組のバンド。
ジャズとアダルト・コンテンポラリーをミックスしたこのバンドの特徴は、なんといってもヴォーカルのSade Adu(シャーデー・アデュ)です。エギソチックな顔立ちと抜群のスタイルを合わせ持ちながらも、セクシーでありミステリアスな独特のハスキーボイス。そんな色気と品格のあるアデュ。その姿はまさに、作り物ではない、言うならば自然を身にまとったような、、そんな気品さえ感じさせます。そんな彼女に多くの女性はもちろんのこと、男性も虜にされたことでしょう。まさに私もその一人です。
Sadeは デビューしてすぐに第2次ブリティッシュ・インヴェンション(注)の波に乗って、イギリスのみならずアメリカでもヒットを飛ばし、さらには翌年のグラミー賞でも最優秀新人賞を獲得するなど、華々しいデビューを飾りました。
日本での反応はというと、実はアメリカよりも半年前に売り込みをしており、日本の市場を当時かなり意識していたようです。そしてその初来日はというと、結成直後の1984年にTHE DIAMOND LIFE TOUR in JAPANというツアーで初来日を果たしています。
会場はインクスティック六本木、ラフォーレ原宿、ツバキハウスといった当時、都内で最も熱いスポットを回り、最後は日比谷野音でのライブだったようです。ステージの内容としては、基本45分のショーケース的内容だったようですが、なんと、このラフォーレのライブにHEARTS/Double代表である山下が行っていたというから驚きです!山下が言うにはものすごくセンセーショナルなライブだったようですが、のちにアデュ自身はこう語っています。
「ビックリしたのは最初のラフォーレのギグね。だって、異常に静かで、最初に演奏を始めたパーカッショニストなんて恐がってたわよ。“もう死んじまいたいよ”ってな感じ(笑)。でも、それが日本人の反応のしかたなんだと思うの。会場のせいもあるしね。ツバキハウスじゃあ全く違ったもの。少々雑音が多くて、すごく静かな曲をやってんのにバーテンダーがグラスを洗うのに必死になってたり(笑)。でも、みんな熱狂的で、客席から声が飛びだしてきたのが素敵。イギリスではないわ、こんなの」(10 November 1984, Popeyeより)
デビュー直後であまり知られていなかったせいもあると思いますが、山下が感じたものとは裏腹にラフォーレのライブに関してはアデュ自身、特殊なイメージを日本に感じたようです。
さて、今回はそんなSadeの5枚目のアルバムから「By your side」を紹介したいと思います。
When you're lost and you're alone and you can't get back again
I will find darling and I'll bring you home
Oh when your side
I'll be there
By your side baby
英語が話せない私(笑)でもわかるストレートな歌詞に、優しいメロディー。この曲をはじめて聞いた時、私はとても暖かい彼女の包容力を感じました。
「By your side」は、前作から約8年ぶりに出した5枚目のアルバム「Lovers Rock」に収録されていますが、それまでのシャーデーの曲調はというと、ジャズをアレンジした感じのものが多く歌詞も愛やそれに伴う苦悩を主に歌っていました。
しかし、このアルバム以降、ある意味彼女の作品はガラッと変わります。のちに調べてみると、実はこのアルバムを作成する前に出産を経験したようなのです。長い充電期間を終え、さらには母になった彼女の中には、パートナーや子供達をもっと深い情愛で包み込む感情があったのかなと、そんな風に私は思いました。
そして、そのほとばしる感情がこの曲を聴く人にも同調することで、包みこまれているような心地よさを与えてくれるのでしょう。
やはり、母なる力は偉大です。
アデュはナイジェリア人とイギリス人の両親を持つハーフで、彼女が4歳の時に両親は離婚、そののちイギリスに移住します。17歳の時に、ロンドンのアートカレッジでファッションデザインを学び、ニューヨークのファッションショーにも出展するなど、音楽に限らず高いセンスを若い頃から発揮していました。PVや、ライヴの彼女の衣装はもちろん、バックバンドの衣装、演出の秀逸さはきっとここから来ているのですね。特にデビュー当時の彼女のファッションというと、ショート丈のセットアップ、タートルネックの重ね着、それでいて全身白という80年代のコーディネートでしたが、今見ても惹かれるものがあります。
太い眉に深色のリップ、そして、ひっつめた毛先の編み込みからちらほら見えるハイライトを施したヘアスタイル。
今期の流行の元が沢山詰まっている、そんな彼女のデビュー当時の映像を見ては、流行がひとまわりしたことも実感します。
そして、特筆すべきは彼女たちの活動方法にもあります。
Sadeは世界中でアルバムセールス5000万枚以上、さらにはグラミー賞も3度受賞していますが、なんと約30年間の活動期間の中で(現在も活動中)出したアルバムはたった6枚のみなのです。
自分たちのペースや、やりたい音楽を守りながら活動をしてるという事なのでしょう。そして、その貫き通した結果、全てのアルバムが世界中でヒットしているのだと思います。
商業的にではなく。そして、決して手を抜くことはしない。
昨今は、本質を追うとか、本物になるとか、今まで商業的な立ち位置であった人たちから軽々しい流行語のような響きで聞く世の中です。ですが、本当にいいものとは、音楽であれ、映画であれ、いつの時代でも人の心をうつものです。そんな彼女たちの音楽だからこそ、ファッションや生き方もすべて、いつの時代でも私たちを魅了してくれるのですね。
余談ですが。
今、50歳を迎えているアデュ。彼女はイギリス西部地方の小さな町で書物や園芸をしながら、ゆったりと曲作る、そんな暮らしているそうです。
女性として、貫きつつもそんな肩肘の張っていないアデュの生活。
すてきですよね。
注) ブリティッシュ・インヴェンション=数々のイギリスのアーティストが世界中で同時に大ヒットし、ブームを巻き起こしたのち、その後の音楽業界にも大きな影響を与えた現象。ちなみに、第1次ブリティッシュ・インヴェンションはビートルズや、ローリング・ストーンズなどが巻き起こしている